続:焼き直し#3|目のくま|医師 百澤明ブログ
投稿日: 最終更新日: 2017-04-13 目のくま
正直言って、8年前にこれだけの文章を良く作ったなと思います。すこし、修正しつつ引用していきます。
下眼瞼除皺術の難しさ
下眼瞼除皺術における目標は、
ずばり、「低い合併症率で、高い若返り効果のある治療法」です。
当たり前ですね。誰だってそう思って治療に取り組んでいるでしょう。しかし、これが下眼瞼に関しては、ことさらに易しくありません。
まず、どうして下眼瞼の除皺術が難しいか説明します。
<外反について>
前述のように、下眼瞼は重力に抗って立ち上がっています。“瞼板”という硬い組織が支持組織としてあり、これが内眼角靱帯および外眼角靱帯という靱帯組織で、眼窩骨に留まっています。これを倒れないようにサポートするのが眼輪筋の緊張(トーヌス)で、皮膚が足りなくなったり、眼輪筋が麻痺したりすれば、前方に倒れるわけです。
つまり、
下眼瞼の立位を保つ要素は
1) 瞼板、靱帯を通じての強さ
2) 眼輪筋の緊張
外反を起こす要素は
1) 瞼板、靱帯などの弛緩(ゆるみ)
2) 眼輪筋の麻痺
3) 皮膚の不足
というようにまとめることができます(下の図表参照)。
このバランスが崩れると内反したり、外反したりするわけです。
皮膚を切除する除皺術は、皮膚を取るわけですから、ちょうど良ければいいですが、取りすぎれば、前方に倒れます(外反)、つまり、皮膚を取ってシワが伸びるためには、下眼瞼が皮膚がピンと張っても倒れない十分な立位を保つ力も持っている必要があるわけです。
また、ハムラ法は一般的に皮膚を取る量を少なめにしても、定型的下眼瞼除皺術(皮弁法や筋皮弁法)に比べて、外反しやすいといえます。これは、眼窩下縁部への眼窩脂肪の移動を行うために、剥離範囲が広くなり、眼輪筋の一過性の麻痺が高度になることが一番の原因であると私は思っています。そのため、外反予防の目的で、外眼角靱帯の固定を行ったり、眼輪筋を上方に牽引して骨膜に固定したり工夫をしているわけです。
この外反という下眼瞼美容手術で最も怖い合併症を起こしたくないがために、私自身も経験がありますが、剥離範囲を狭くして、皮膚の切除量も少なめにして、保守的に手術を行った結果、全然しわが改善していない、というトラブルケースをよくみかけます。
<外反を防ぐために>
私は、経結膜的眼窩脂肪移動術は若い人だから、皮膚切開なしでと思い始めたのですが、その後、Dr. R. A. Goldberg, Dr. H. Kawamotoらの論文に、
経結膜アプローチで眼窩脂肪移動を行う下眼瞼手術は、
1) 皮膚を切除しない、眼輪筋を損傷しないことで、外反が著明に少なくなる。
2) 皮膚を切除しないでも目袋がなくなるため中高年者でも若返り効果は十分である。
3) 必要があれば、ケミカルピーリングやレーザーリサーフェシングなどで皮膚をタイトニングすればよい。
と、いうような内容を記述してあるのを読んで、
“皮膚を切開しなければ,眼輪筋も損傷しないので、外反は少なくなる”
そりゃそうだ!!と思ったのです。
しかし、皮膚切除は外反のリスクを冒すとの兼ね合いを考慮すると、それに見合うだけの意味がないというような意見で、すぐには賛同しかねましたが、今では私もそう思っています。
つまり、皮膚を切除するという操作は、下眼瞼がどれだけ倒れずに持ちこたえる力を持ってるかを厳密に見極める能力が必要となり、この見極める力が術者の技量となるわけです。が、“そんなのやめよう”というのが、私の考えです。経験積んで神業を得たとしても、100回、200回連続でうまくいくわけがありません。技術の熟練によって合併症率が徐々に下がるだけで、急に下がるはずがありません。術式を変える、概念を変える必要があると思うのです。
そこで、外反という合併症を避けつつ、十分な若返り効果を得るための私のコンセプトは
1) 経結膜でアプローチし、皮膚は切除しない
そうすることで眼輪筋も損傷せず、外反が圧倒的に生じにくくなります。
2) 皮膚の余剰は、レーザーを用いて治療する
皮膚のシワは、何回かに分けてタイトニングしていきます。最近ではいろいろな皮膚タイトニング用レーザーがあり、当院でも、もっと効果の高いものを求めていろいろと試したりもしています。治療が複数回になりますが、一度に切除量を決めるのと異なり、勝負しなくて良いわけですので、安全です。さらに、下眼瞼全体の皮膚の質感の改善にもなります。
以上、2008年のブログの引用ですが、
やはり今でも考え方に変わりはありません。