経結膜的眼窩脂肪移動術#1|目のくま|医師 百澤明ブログ
投稿日: 最終更新日: 2017-04-13 目のくま
経結膜的眼窩脂肪移動術
では、
数年前に私が書いた文章を修正しつつ、焼き直しします。
以下 引用
今回から数回にわたり、私が最近、経結膜的眼窩脂肪移動術を頻用するようになった経緯、また本法の概念、利点や欠点について、詳しく述べていこうと思います。
ここ最近、原著論文や総説などいくつか、本法に関する医学論文を執筆しましたが、論文では、紙面が限られていたり、私見は述べにくかったりするので、そういったものにとらわれず正直なところを記述していきたいと思います。
今回は、経結膜的眼窩脂肪移動術 #1として、私が経結膜的眼窩脂肪移動術をはじめるに至った経緯について述べたいと思います。
私は、形成外科医として美容外科診療に関わるようになってから、下眼瞼の美容手術については、定型的下眼瞼除皺術(皮弁法、筋皮弁法)、とそれに脱脂を追加したもの、ハムラ法と順に習得してきました。また、目袋変形には経結膜眼窩脂肪切除術(いわゆる脱脂)が有効と教わりました。
定型的下眼瞼除皺術だけでは、目袋がなかなか良くならないなと思っていたところに、ハムラ法を習得して、ハムラ法の目袋変形に対する治療効果には感銘を受けました。しかし、その後、経験を積むに従い、合併症に悩み出しました。
下眼瞼の除皺術は、一言でいって、下眼瞼外反との戦いです。下眼瞼は人体の中では珍しく重力に抗って下から上に立ち上がった構造をしています。これが前方にひっくり返った状態が外反です。皮膚を切除したり、眼輪筋が麻痺したりすると容易に外反が生じます。“あっかんべー”の状態です。皺を取ろうとして、下眼瞼の皮膚を切除すれば、当然下眼瞼は下に引っ張られて外反しやすくなります。下眼瞼がひっくり返らないで頑張っていてくれないと、皮膚を切除しても皺がなくならないわけです。ですから、外眼角固定術を行ったり、眼輪筋を上方に牽引して固定したりして、下眼瞼が外反しにくい状態にして、皮膚を取るなどの工夫をするわけです。しかし、釣り合いのちょうど良いポイントはとても難しく、長年の経験や勘が必要です。加えて、人によっても下眼瞼のひっくり返りやすさが異なります。これを術前に予測するための検査方法がいくつかありますが、何ミリ取ればよいという明確な答えが出るわけではありません。やはり術者の経験と勘です。
そこで、私はまず、ハムラ法をもっと勉強することにして、ハムラ先生その他の英語の医学論文を時代の順に一生懸命読破しました。その際、勉強して理解したことは、
1) われわれ日本人がハムラ法と呼んでいるのは、眼窩脂肪を眼窩下縁の下方に移動する術式を従来の眼瞼除皺術に加えたもので、これはハムラ先生がおこなっているtotal face rejuvenation surgeryの一部にすぎないこと。
2) transcantho-canthoplasty、やmuscle plastyなど様々な外反予防の工夫をしていること
3) 眼窩脂肪はなるべく温存すべきと主張していること
などです。
一方、ちょうどその頃、私のもとには、ある掲示板をみた“目のくま”を主訴とした眼瞼周囲色素沈着症の患者様が多数、訪れていました。いわゆる“茶ぐま”です。この患者様の中には、本当に色素沈着があって、目元が茶色くなっている人もたくさんいらっしゃいましたが、実際には目袋変形や鼻頬溝(nasojugal groove あるいは、tear trough deformityと呼ばれます)が目立つ、いわゆる“影くま”の患者様がたくさんいらっしゃいました。
影くまはレーザーや外用剤では、良くなりませんので手術の適応となります。そこで、私の経結膜的眼窩脂肪移動術が始まりました。
最初の患者様は、20代のtear trough deformityが目立つ患者様(図1)でした。脱脂では、返って溝が目立ってしまうように思えて、ハムラ法が最も影が消えると思ったのですが、まだ若い患者様でしたので、皮膚を切除する必要はないし、皮膚を切らずにハムラ法ができれば、キズも残らずいいのになと、このとき思ったのです。経結膜アプローチで眼窩下縁の骨折が治せるのだから、眼窩脂肪の移動(ハムラ法)ができないわけがないと思い、正直に経結膜法でのハムラ法はまだやったことないけど、それぞれ別々にはやったことがあって、できると思う、と、患者様に話してみたところ、是非やってくださいと、言ってくれたのです。
この勇気ある20代の男性患者様が私が行った経結膜的眼窩脂肪移動術の第一例目です。
このときは、私が世界ではじめて経結膜アプローチでハムラ法を行ったと思っていました。
しかし、ただ不勉強だっただけでした。調べると、すでに同様の方法をDr. Goldberg、 Dr. Kawamoto、 Dr. Nasiffなどの美容外科の大家たちがすでに多数経験し論文にまでしていました。
正直、ガッカリしましたが、彼らの論文を読み勉強したことでいくつかのアイデアが生まれました。
その時、勉強した内容は
1) 皮膚切除を行うことは、下眼瞼外反のリスクを背負う割には、皺を取る効果は弱い。
2) 経結膜アプローチは、経皮アプローチに比べて、合併症がすくなく、安全である。
3) 皮膚のタイトニングは、ピーリングなどで別におこなう。
4) 眼瞼の加齢感は、皮膚の変化だけではなく、目袋変形やtear trough deformityも関係しており、皮膚をいじらずにこれらを改善するだけでも、かなり若返ることができる。
そこで、中高年以降の患者様のいわゆる下眼瞼除皺術に、ハムラ法を行うと合併症がおおいことに悩んでいた私は、
まず、経結膜的眼窩脂肪移動術で目袋変形やtear trough deformityを改善する、つまりベースを整えておいて、皮膚はレーザーでタイトニングすることで、外反のリスクを回避した下眼瞼除皺術が可能になるという方法にたどり着いたのです。
つまり、
現在、私は経結膜的眼窩脂肪移動術の最大の利点を、合併症が回避できることと主張していますが、
私が経結膜的眼窩脂肪移動術をはじめたきっかけは、眼窩脂肪移動術の適応だが若い患者様だから皮膚を切開する必要がない、だから経結膜アプローチで眼窩脂肪を移動した。ということだったのです。
次回からは、具体的にどの様な利点・欠点があるのかを説明していきます。